人は自然の中で一人で生まれて来たら完全に自由であるが、生き延びることは難しい。だから社会と契約して自由を差し出し社会的責務を果たす代わりに、社会に身の安全を保障してもらう。社会契約論ではこのように考えるが、これは自由と安全はトレードオフであることを示している。

個人が自由に振る舞うことは他人の自由の損害になることもある。安全性の高い社会とは低い社会に比べて、ルールが多く個人の自由をより多く奪う社会であるとも言えるだろう。こう考えると日本の治安の良さは、他国と比べてより多くの自由を奪うがゆえに成立しており、それゆえ精神を病み自殺する者を多く産むとも考えられる。

日本人の20代以降の自殺率は2009年から2019年までの間、右肩下がりで減少し続けた。また10代の自殺、特にいじめは何十年と積極的にメディアが取り上げ続けてきたが、長年ほとんど横ばいだったようだ。(2016年からは増加傾向にある)

年代別自殺率

自殺率のピークは2000年前後で、バブル崩壊から経済困窮に陥っていった人たちが多くいたこと、ブラック労働、ブラック派遣の横行、陰鬱な終末思想が要因としてあるだろう。自殺率が下がっていったのは、これらの問題が社会認識され一定の改善があったからだろう。終末の到来は外れたというだけだったが。

世間の認識と食い違うと思うがピーク以降に大人の自殺が減少した理由の1つは、非正規雇用の増加もあるのではないかと思う。終身雇用は経済的安全を保障してくれるが、雇用の流動性が低く転職が難しい社会でもある。会社の人間関係でハズレを引いてしまった時、辞めて転職先を探すことは非正規雇用が多い今の時代の方が容易であろう。転職の自由は経済的安全とトレードオフと言える。

ちなみにアメリカは1990年初頭から殺人率は減少傾向にあり、2000年あたりから自殺率は上がっているようだ。昨今のマイノリティの人権意識の高まりとポリコレの台頭から見るように、多様な人々の社会的安全と従来のマジョリティの自由がトレードオフになった結果なのかもしれない。

最後に付け加えておくと現象の主観を書いただけで、私個人がどうあるべきかという思想は特にない。