2002年のアニメ・攻殻機動隊を観て思ったこと

2002年から放送開始した初代テレビアニメの攻殻機動隊、STAND ALONE COMPLEX。久々に観直してみました。一度観た時は、あまりおもしろいと思えませんでした。

先日1995年公開の映画GHOST IN THE SHELLを今さら観ました。この時代にこんなテーマを扱っていたのかと、ちょっと衝撃だったので(今さらですが)、アニメももう一度観てみる事にしました。

それで改めて知ったのですが、1995年の映画版は2002年のアニメ版とは世界線が異なるんですね。登場人物や、人々は半サイボーグ化して、脳をネットに繋ぐ事ができる、という設定は同じですが、扱っているテーマは異なります。

アニメでは副題になっているSTAND ALONE COMPLEXがテーマになっている。この造語はスタンドアローン=自立、コンプレックス=複合という相反する言葉を繋ぎ合わせたものです。

日本語でコンプレックスというと主に劣等感を指す事が多いですが、ここではその意味はないです。英語では複雑さという意味もあり、その意味も多少含まれてそうな感じもありますが、主に複合という意味で使っていると思います。

ネタバレになりますが、義憤から事件を起こした天才ハッカー・アオイは、そのハッキングの手口で世間を賑わせ、笑い男と呼ばれるようになった。モザイクがわりに使った笑った顔のマークによるもので、本人がそう名乗ったわけではない。

事件後、複数の模倣犯が現れるが、世間では全員同一人物なのか、複数犯なのか、模倣犯がいるのか、わからないまま未解決となっている。義憤によって行動を起こしたアオイはその顛末に失望感を抱く。

自立した意志で行動したのに、愉快犯であるかのような笑い男という名が独り歩きしてしまった。始まりは個であったのに笑い男という複合的存在になってしまった。また世間では笑い男は単独犯=個という見方もある。

これが自立と複合という相反する言葉を繋ぎ合わせた造語の意味のようです。監督のインタビューによるとChain Reactionというネーミングも考えていたとか。こちらの方がわかりやすいですが、ひねりがないように感じますね(笑)

このインタビューで、ネットで情報が共有化されるに従って、皆が繋がっていく状態が強化されていくのではないか、犯罪でも同じ事が起きていくのではないかということを描きたかったと語っています。

本アニメが放送されたのが2002年、アノニマスが結成されたのが2006年頃ということですから、彼らの出現を予言していたとも言えると思います。ただ今の時代もう真新しい感じはないですよね。

今やSNSの普及で別のところへ行ってしまった感じすらあります。フィルターバブルと情報分断による思想分断、知の格差の方が問題として大きい、というのが現状ではないでしょうか。

話の中でAIは出てくるけど、リコメンドエンジンよるフィルターバブル化という現象は予想できなかったようです。SNSの開発者達も予想外だったようですが。

これに対して映画GHOST IN THE SHELLで扱ったことは、現在直面しようとしているテーマに近いと思います。95年当時に伝えるべき事として扱ったのはすごい事だなあと思います。これについては次の記事で書きたいと思います。

最初に観た時はアニメはあまりおもしろいと思えなかったと書きましたが、今回は映画とテーマが違うことを意識して観たので、余韻を残すものはありました。

それは先ほどのインタビューでも語られているように、タチコマが笑い男と対照的に描かれていることです。

笑い男は個から複合となったけれど、タチコマは行動や経験を複数機で同期していて、元来複合的な存在。それでも一卵性双生児に独立した個性があるようにタチコマにも個性が宿る。本ばかり読んでいる個体もいる(笑)

素子が個性を獲得した自分達を危険と見始めている事に感づいて、皆で相談してロボットのような喋り方をするシーンは笑いましたね。前は自然にやってたけど、どうやっていたかわからないと言ったり(笑)

危険と見なされバラバラに配属される事になったタチコマ達は、最後にバトーを助けるという同期した行動を取る。これは同じアルゴリズムで同じ行動をしたとも取れるけど、描写から可愛がってくれたバトーに親愛の感情を持っているのも確かでしょう。

笑い男は皆人間のはずだけれど、匿名で顔が見えない存在。対して機械であるタチコマの方に人間的なものを感じるように描かれている。という事に気づくと、最初に観た時にはなかった印象を抱く事ができたのでした。

AIが感情を持つ事ができるかどうかは、より人間らしくなったAI=Chat GPTが世間を賑わせている今、現実感を持って考える人は増えているでしょう。