コンビニ人間(読了)
小説・コンビニ人間を読み終えた。積極的に他人に危害を加えることなく社会に順応しようとする、そんなタイプのサイコパスをうまく描けていると思う。
共感力が低い私は主人公のことを架空の存在とは思えなかった。サイコパスはよく槍玉に上がる他人に害をなす者よりも、実際にはこういうタイプの方が多いのではないだろうか。
彼らは自らの感情の欠落を自認し、人に迷惑をかけることは社会のルール上よくないと理解している。そして表向きは社会に順応している。他人に奇異にみられることはあっても社会的に無害な存在だ。
感情が欠落しているが故に、感情が欠落していることに悲しいという感情を抱くこともない。38歳独身で、コンビニバイトしかしていないことに引け目を感じることもない。
コンビニの仕事ができなくなったら社会に居場所がなくなることを、多少気にかけているだけである。もしその時が来たら、主人公はたいして悲観することなく、自死を選びそうな気がする。
共感力が人並みにある人がこの小説を読むと、主人公に哀れみを感じるかもしれない。しかし当の本人は他人が哀れむ理由を不思議がるか論理的に分析するだけだ。ルサンチマンを抱える登場人物・白羽は、そんな主人公とは対照的な存在として描かれている。
共感力が低いと嫉妬もしないからルサンチマンに陥ることもない。共感力が低いということは社会の物差し、他人の評価が気にならず、それゆえ苦悩を感じにくく、ある種の生きやすさを抱えているとも言えるのではないだろうか。
紹介文に「普通とは何か?」とあるが、単純に現代社会の「普通」に疑問を投げかけている内容ではないと思う。自分らしく生きたいという内容でもない。だから白羽の縄文時代から変わっていないという台詞が出てくるのだ。
主人公の生きる世界観は共感力が閾値以下に生まれて来ないと決してわからないものだと思う。