隠匿的読書生活

囚われがちの脳を読書で解放

今読むべきロシアと旧ソ連領国家に関する2冊の本

ウクライナ情勢について、多くの日本人には馴染みがなかったため、突然戦争が始まったかのような印象を受けた人も多いだろう。私もその一人だ。無知を反省しつつ、経緯を知るべく以下の2冊の本を読んだ。大変おすすめできる本だと思う。

これらの本を選んだのは、それぞれ2008年、2014年(クリミア併合直後)に発刊されたものだからだ。今後、ロシア、ウクライナに関連する本は、熱を帯びバイアスがかかっているものも多いだろう。だからあまり世間に注目されていなかった頃に書かれたものを選んだ。我ながら良い選択をしたと思う。

著者はコーカサス地方の研究を専門としてきたという。コーカサス地方は北は主にロシア領、南はジョージアアゼルバイジャンアルメニアの三つの国からなる。この地域にウクライナは含まれていないが、近くの西側に位置し南コーカサスの国々と同様の国境問題を抱えている。

本書2冊の中でウクライナについても触れられているが、割かれているページ数は著者の専門分野であるコーカサスの方が多い。しかしどちらも旧ソ連領から独立した国家で、同じくロシアとの間に国境問題があり、火種を理解できる内容になっている。

「強権と不安の超大国・ロシア」の方は、タイトル通りロシアに重きを置いている。1章では、経済成長したロシア、旧ソ連から独立した国の人々皆が、ソ連時代は暗黒時代だったと思っているわけではない事について書かれている。

旧ソ連時代の方が、年金は潤沢で、等しく良い教育が受けられ、余暇も与えられ、物価も安定していた。ソ連崩壊後は、教育格差が広がり、物価も上がり、雇用も不安定になった。それゆえソ連時代の方が良かったと考える人が一定数いるという。

今となっては、社会主義・計画経済による市場効率を無視した生産性の低さが破綻の一因と言われているし、継続しない安定だったのであろう。ただ、旧ソ連にノスタルジックな感情を持つ人々が実際にいて、親ロシア派のような存在は虚構ではないことはわかる。

2章ではロシアと旧ソ連領だった国々との国境付近に存在する未承認国家と、その成り立ちについて書かれている。旧ソ連への想いがある人々がいることを理解すると、彼らの存在が未承認国家誕生の一因となっているとわかる。その上でロシアの旧ソ連領への影響力確保という動機も重なっているということのようだ

3章ではロシアのKGB的体質について書かれている。現在も政府要人ポストに元KGB職員が就いていることから、KGBの体質を理解することはロシアの体質を理解することにもつながるだろう。特にソ連時代に現地で仕事をした日本人の統制社会の体験は興味深く読めた。

「強権と不安の超大国・ロシア」の2章の未承認国家に関する話は、もう一冊の本「未承認国家と覇権なき世界」で深く掘り下げている。クリミア併合直後に書かれているので、この件およびウクライナとロシアが抱えている問題についてもページを割いてあり、今回の火種の理解になる。

著者曰く、近年のロシアの国境問題における強硬的な行動は、コソヴォの独立も大きな要因としている。旧ソ連領のセルビアからのコソヴォの独立にアメリカが肩入れしたことがロシアの不信感を高めたと述べている。

よく報道ではNATOの拡大が原因と言われ、コソヴォのことに触れられることはあまりないが、本書ではページを割いて説明している。こういった話を読むと、今に至るまで長年の複数要因があるのだとわかるし、ユーラシア主義への回帰、暴走というのは単純すぎる見方であると思う。

ちなみに著者はウクライナ全土の戦争勃発を予想できなかったことで、「研究人生で構築してきたセオリーは水泡と化した」と述べている。

www.sfc.keio.ac.jp

確かに戦争を見誤ったことは事実かもしれないが、著書に読む価値がなくなったということは全くない。私が今までの経緯を理解する助けになったし、それは他の人も同様であろう。改めて今、読むことをおすすめしたい。